声なき人々に声を:アフガニスタンでのファティマの挑戦

「アフガニスタンの女性たちは、この国のよりよい未来をつくる可能性を秘めています。私の役割は、コミュニティでの対話の場で女性たちの声を聞き、地域の開発プロセスで彼女たちの潜在能力を引き出すことです」

今日のアフガニスタンでは、2021年8月の政変以降、暫定政権によって女性の教育や社会経済活動が制限される状況が続いています。ファティマは社会規範や逆境に立ち向かうアフガニスタン女性のひとりです。

彼女は、国連人間居住計画(ハビタット)が日本政府の支援のもとで実施している「紛争の影響を受けたアフガニスタン人への緊急支援プログラム」でコミュニティ調整員を務めています。このプロジェクトは、カブールとヘラートの都市部のインフォーマル居住区に住む5万人の国内避難民(IDP)と帰還民の緊急のニーズに応えるため、様々なサービスと必要不可欠なコミュニティ・インフラを提供することを目的とし、特に女性のニーズに焦点を当てています。 「声をあげることができなければ、アフガニスタンの女性たちはますます目に見えない存在、そして非力な存在になってしまう」と、ファティマは考えています。女性たちはアフガニスタンのコミュニティをよりよくしていくためにとても重要な役割を担っていなす。さまざまな困難がありますが、ファティマはこのプロジェクトを通じて、弱い立場にある女性たちのロールモデルになるために尽力しています。

カブールで行われた戦略的マッピング・ワークショップで、女性参加者たちに語りかけるファティマ © UN-Habitat Afghanistan

ファティマの子ども時代は、他の多くのアフガニスタンの少女たちと同様に、決して容易なものではありませんでした。両親は農家で、経済的に豊かな家庭ではなかったため、子どもの教育にお金をかける余裕はありませんでした。そんな状況でも、彼女は学校に通い続け、12年間の教育課程を卒業しました。

勉強が好きで、人に勉強を教えることにも熱心だった彼女は、教師になり、一日の半分を地域の公立小学校で少女たちに教え、残りの半日を数学と物理の勉強に費やす日々を過ごしました。

ファティマの勉学への熱意は苦労の連続でした。アフガニスタン社会では女性の教育や雇用は当然なものとして受け入れられていなかったため、ファティマはよりよい機会を求めて故郷からカブールの都市部に移り住みました。しかし、首都での挑戦も決して簡単ではなく、仕事や住む場所を探すのも大変でした。それでも、自分自身と家族のため、よりよい未来を掴む努力をやめませんでした。

そんな彼女の人生に大きな転機が訪れたのは、アフガニスタンのNGOで仕事を得た時でした。NGOのプログラムでトレーナーを育てるためのトレーナー(ToT)として働きながら、彼女はカブールの大学で経済学を学びました。学業と仕事の両立は決して簡単ではありませんでしたが、彼女はあきらめませんでした。

3人の子どもたちの母親でもあるファティマは、子育てに愛情を注ぎながら、さらにいくつかの組織で経験を積んでいきました。そして、ある日、彼女の仕事に対する情熱は、国連ハビタットが実施する日本政府支援プロジェクトで、コミュニティ調整員として働くことにつながりました。 調整員としての彼女の仕事は、今日の難しい社会環境下で、コミュニティ全体の参画を促す様々な活動を進めることです。さまざまな社会的な制約がある中、女性の声に耳を傾け、女性のニーズに確実に対応するため、調整員はとても重要な役割を担っています。プロジェクトの実施を通して、ファティマは地元関係者にプロジェクトへのサポートを促したり、コミュニティが抱える課題を整理して行動計画を決めるワークショップを開催したり、最も弱い立場にある女性たちをキャッシュ・フォー・ワークCash-for-Work)活動の参加者に選んだりしました。

女性のための能力向上ワークショップでセッションを進めるファティマ
© UN-Habitat Afghanistan

調整員としての活動中、ファティマはいくつもの試練に直面しました。コミュニティの住民たちにはそれぞれ独自のニーズや優先したい事があり、必ずしも他の人たちと同じではありませんでした。フォーカス・グループでの話し合いの場では、参加型プロセスで声を上げることに慣れていない女性もいました。インフラ建設のプロジェクトで女性を労働力として受け入れるよう促すことは、男性優位の社会では容易なことではありませんでした。コミュニティが暫定政権と女性の参加に関して抱く恐怖心を克服するのはさらに大変なことでした。それでも彼女は地元当局と緊密に連携しながら、女性の支援と対話に力を尽くしました。

こうしたハードルがあったにも関わらず、ファティマはあきらめませんでした。彼女はコミュニティでの女性のエンパワーメントに粘り強く取り組み、プロジェクトの合意形成プロセスで女性が不可欠な存在であることを伝え続けました。彼女の献身と情熱は、コミュニティを変え、女性の声を届ける機会を提供するための原動力となりました。

ファティマの努力は、プロジェクトチームで一緒に働くもうひとりのコミュニティ調整員(男性)のカリルが常に支えてくれていました。ファティマが他の女性たちのためにしたように、カリルはコミュニティの男性たちと精力的によい関係を築き、ワークショップの重要性を伝えました。「彼のサポートにはとても感謝しています。女性のためのワークショップが終わるまでいつも待っていてくれて、私が家に帰るまで付き添ってくれました」とファティマは話しています。

少女時代の苦難を乗り越えてコミュニティ調整員になったファティマの人生は、これまで彼女が活動してきたコミュニティの住民女性たちにインスピレーションを与えています。日本政府支援プロジェクトでの彼女の活躍は、弱い立場に置かれたたくさんの人々の生活を向上させただけでなく、アフガニスタン女性が声をあげるための場をつくり出しました。

「女性の参加は、コミュニティの優先課題を決める時に不可欠」「能力向上ワークショップを通じて新しいスキルを身につけることができた。今ではプロジェクトの活動を自分たちでモニタリングすることができる」。こういった言葉をコミュニティの女性たちから聞くたびに、ファティマはとても嬉しくなり、国連ハビタットのコミュニティ調整員であることを誇りに感じています。 ファティマのストーリーは、決意、教育、そしてレジリエンス(回復力)が何よりも大切だということを示しています。そして、女性のエンパワーメントに対する彼女の努力は、将来に渡ってコミュニティに影響を与えていくことになるでしょう。

日本支援プロジェクトでコミュニティ調整員として働くファティマ © UN-Habitat Afghanistan

*個人情報保護のため、この記事ではファティマという仮名を使用しています。

twitterでシェア facebookでシェア
twitterでシェア facebookでシェア
top