アフガニスタン:インフラが変えるインフォーマル居住区の女性の生活

「半年前、私は一人息子を妊娠していました。カブールはちょうど寒さの厳しい冬で、大雪が降り、街はとても冷え込んでいました。私の家の外の舗装されていない道も凍りついていました」

ファリマは3人の娘と1人の息子を持つ母親で、アフガニスタンの首都カブールにあるインフォーマル居住区のひとつ、サリ・コタル地区で家族とともに暮らしています。彼女の夫は行商を行なっており、1日あたり100~200アフガニ(約1~2米ドル相当)の収入を得て、なんとか家族の生計を立てています。

「あの朝、数日後に出産を控えていた私は、病院に行くことになっていました。夫に付き添ってほしかったのですが、もうすぐ家族が増えることもあり、夫は仕事を探しに出かけなければなりませんでした」

ファリマがひとりで自宅から病院へと出かけようとした時、悪夢が彼女を襲いました。凍りついた道の上で突然足が滑って転倒し、気がつくと彼女は自分の体を動かせなくなっていました。左手に激痛が走るなか、ファリマは「赤ちゃんが…赤ちゃんが…助けて!誰か助けて!」と叫ぶことしかできませんでした。

しかし、大雪が降ったあとの凍てつく早朝、近隣の住宅の扉やゲートは閉じたままで、彼女の弱った声は周囲に届きませんでした。手足は寒さでしびれ、めまいとともにファリマの意識は次第に遠のいていきました。

サリ・コタル地区に住むファリマ(右から2人目) ©UN-Habitat Afghanistan

「目を開けると、娘が泣いているのが見えました。私は何が起こっているのかわかりませんでした」。その時、ファリマは病院のベッドに横たわった状態で、左手は骨折していました。医師はすぐに彼女を分娩室へと搬送し、そこで男の子が無事に産まれました。さまざまな感情の渦の中での出来事でした。

インフォーマル居住区では、ファリマのコミュニティのように、多くの人が所有権の明確でない土地に仮住まいのような状態で日々の生活を送っています。その住環境は人が暮らすのに適したものではありません。

30年以上にわたる紛争の影響によって脆弱な立場に置かれた人々は、基本的なサービスやインフラの欠如といった深刻な課題に直面しています。さらには、立ち退きの脅威やさまざまな保護に関するリスクの問題を抱えながら、毎日暮らしています。

プロジェクト実施前のサリ・コタル地区 ©UN-Habitat Afghanistan

国連人間居住計画(ハビタット)は、日本政府の支援のもと、アフガニスタンでプロジェクト「紛争の影響を受けたアフガニスタン人への緊急支援プログラム」を実施しています。カブールとヘラートの都市部のインフォーマル居住区に住む5万人の国内避難民(IDP)と帰還民の緊急のニーズに応えるため、様々なサービスと必要不可欠なコミュニティ・インフラを提供することを目的とし、さらには女性のニーズを満たすことを重視しています。

ファリマのコミュニティでは、プロジェクトを通じて8つのコンクリート道路が整備されました。ファリマ自身もコミュニティの意思決定プロセスに参加し、道路整備のために声を上げた一人です。

「あの日の出来事は今でも忘れられませんが、私の住む地域では、かつて土埃の舞っていた道が今はコンクリートで舗装されました。緊急時には家の前まで車が入れるようになりました。このプロジェクトに尽力してくれたすべての人たち、そしてドナーである日本政府にとても感謝しています」

ファリマは今、妊娠中の女性が自分と同じ苦しみを味わうことがないように願っています。

プロジェクト実施後のサリ・コタル地区 ©UN-Habitat Afghanistan

カブールの中心部には、タニコット地区と呼ばれる急勾配の山々に囲まれた別のコミュニティがあります。紛争の影響を受けた人々が、限られたアクセスと厳しい生活環境のなかで暮らしており、ここもまた、国連ハビタットが日本政府とのパートナーシップのもと、インフォーマル居住区に住む脆弱な人々への支援を行っている地域のひとつです。

タニコット地区の暮らしは過酷で、特に雨季になると洪水が起きて道が通行できなくなったり、家屋が水没したりする災害に頻繁に見舞われていました。未舗装の道は凸凹した危険な路面で、緊急時でも救急車が現場に急行できませんでした。学校に通う生徒と教師たちは、思うように学校に行けない日もありました。冬になると道はぬかるみ、仕事に向かうのも大変な状況でした。

この地区に暮らすマルツィアは、夫が仕事から帰宅するのが遅かった時に何度も怖い思いをしてきました。暗闇の中で凸凹の道を歩かなければならない夫の身を案じ、実際に家に帰るまでいつも不安でなりませんでした。多くの家族が同様の恐怖や不安を抱えていただけでなく、整備された道路がないことで、カブールの他の地域から切り離され、孤立しているとも感じていました。

そんなタニコット地区を、国連ハビタットが日本政府支援プロジェクトの実施場所のひとつに選んだことで、住民たちに転機が訪れることになりました。プロジェクトに住民たちの声を反映させるため、鍵となるワークショップでは、住民自らが考えるインフラのニーズや優先事項について話し合う機会が与えられました。

「プロジェクトのコミュニティ参加プロセスを通して、私を含む参加住民全員が、タニコット地区のアクセス道路と洪水を防ぐための排水溝の整備(隣接するタクニクム地区からアリ・マラン地区にかけての安全な道路)を優先することに賛成しました」と、マルツィアは振り返りました。

タニコット地区に住むマルツィア(写真左の中央)と新しく整備された道路 ©UN-Habitat Afghanistan

新たに整備された道路の開通式の日、タニコット地区の住民は一緒にこの変化を祝いました。そこには子どもからお年寄りまで、多くの人たちの喜ぶ顔があり、新しい道路が人々の生活に与えた影響の大きさを映し出しているようでした。

「道路の整備が始まってから目を見張る変化があり、とてもうれしく思います。山に向かって道路が巧みに敷かれ、以前は荒れていた風景が様変わりし、孤立していた地域が今では活気あふれるカブールの街へとつながりました」

プロジェクトの開始式 ©UN-Habitat Afghanistan

新しい道路は、物理的にインフラを改善しただけでなく、過酷な生活環境だったコミュニティに新たな息吹をもたらしました。

「工事の質はとても高く、排水システムが適切に配置されたことで、洪水時の水の流れを効率的に管理できる道路が完成しました。このインフラ整備は、地域に新たなつながりとレジリエンス(回復力)をもたらしてくれて、地域全体が誇れるものとなりました」と、マルツィアは続けました。

道路が舗装されたことで、タクシーが簡単にこの地域を行き来できるようになり、住民たちの交通アクセスが向上しました。最近では、時間通りに登校する子どもたちが増え、また、以前よりも人が集まる機会が多くなりました。

プロジェクト終了後のタニコット地区 ©UN-Habitat Afghanistan

「タニコット地区はもう孤立した地域ではありません。季節を問わず、いつでも親戚や来客を迎えることができる活気溢れる地域になりました」。マルツィアは今、これまで知ることのなかった安全と安心を感じています。

タニコット地区での日本政府支援プロジェクトは、脆弱な立場にある人々が、共通の目標のために団結した時にどんなことが達成できるのかを示しています。それは、すべての人の明るい未来のために、絶望を希望に変えていくことでもあります。

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